大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和51年(行ク)2号 決定 1976年10月19日

原告(申立人) 地濃亥吉

右訴訟代理人弁護士 今井敬弥

同 渡邊隆夫

従前の被告 新潟県

右代表者知事 君健男

右訴訟代理人弁護士 伴昭彦

新たな被告 新潟県収用委員会

右代表者会長 坂井一元

主文

原告(申立人)の提起にかかる当庁昭和四六年(行ウ)第二号補償金等請求事件につき、請求の趣旨を「被告(新潟県)は原告に対し、金五〇万二、一〇八円及びこれに対する昭和四五年一二月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員並びに昭和四五年一二月八日から本判決確定に至るまで一日金七五〇円の割合による金員を各支払え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求める」から「一、被告新潟県収用委員会が昭和四五年一一月七日別紙物件目録記載の土地について行なった権利取得裁決及び明渡裁決はこれを取消す。二、被告新潟県は原告に対し金三三万一、四〇五円及びこれに対する昭和四六年一二月八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は被告らの負担とするとの判決並びに第二項につき仮執行の宣言を求める。」に変更すること、及び右変更後の請求の趣旨第一項につき被告を新潟県から新潟県収用委員会に変更することをそれぞれ許可する。

理由

一、原告(申立人、以下に原告という)は主文同旨の決定を求め、その理由として要旨次のとおり述べた。

1、被告新潟県(以下に被告県という)は、県道新津・村松・加茂線改修工事(五泉市及び新津市内)並びにこれに伴う市道取付工事及び水路付替工事事業実施のため、土地収用法に基づいて、昭和四五年三月二四日建設大臣の事業認定を受け、同日告示をなし、新潟県収用委員会(以下に収用委員会という)に対して別紙物件目録記載の土地(以下に本件土地という)について同年六月一〇日裁決申請、同年八月二一日明渡裁決の申立をなしたところ、同委員会は同年一一月七日、本件土地の所有者を訴外林孝三、同地上建物(以下に本件建物という)の所有者及び世話人を原告として、権利取得裁決及び明渡裁決(以下に合せて本件裁決という)をなした。右裁決書の正本は同月一四日原告に送達され、被告県は同月二五日右裁決に基づき本件土地を収用した(以下に本件収用という)。

2、しかしながら、本件土地は原告の所有にかかるものであり、本件裁決にはその対象土地の所有権の帰属の認定を誤った違法があり、且つ本件建物に対する損失補償についてもその額を過少に認定した違法があるので、原告は、前記のとおり、本件裁決の正本の送達された昭和四五年一一月二四日から三箇月以内の昭和四六年二月八日、当庁に対し本件収用により原告の蒙った損失の補償を求める訴を提起し(当庁昭和四六年(行ウ)第二号補償金等請求事件)、右訴は現に当庁で係属審理中である(以下に本件訴訟という)。

3、本件訴訟における本件土地に関する原告の請求の主旨は、原告の所有権に対する違法な侵害からの救済を求めるものであって、本件収用の取消又は無効をその前提とするものであるが、原告は本件収用に遭遇するまで法律に関し全くの素人で知識がなく、土地収用に関する行政訴訟上の救済は全て土地収用法一三三条にいわゆる損失補償の訴によるべきものと誤解したので、本件収用に関し直接原告と接触し、そのために原告の不満の主な対象であった新潟県を被告として右法条に定める三箇月の出訴期間内に主文前段記載のとおりの申立をなしたものである。

従って、原告の本件訴訟の請求の主旨は、本件土地に関しては本件裁決の取消を、本件建物については正当な損失補償金と原告の既受領金員との差額をそれぞれ求めるものであるので、その請求の趣旨を明確にするため行政事件訴訟法(以下に行訴法という)二一条の類推適用により本申立に及んだ。

なお当初原告が被告を新潟県としたのは前述のような事情によるものであって、その故意又は重過失によるものとはいえないし、本申立が遅れたのも、昭和五〇年三月一八日まで法律知識のない原告が本人訴訟をなしてきたことと、本件が複雑困難であり、その主張立証の準備に多大の労力・時間を要したためであり、これ又原告の故意又は重過失によるものとはいえない。

二、本件申立に対する被告県の意見の要旨は、

1、本件訴訟は土地収用法一三三条に基づく損失補償の訴であり、本件申立にかかる裁決取消の訴は、新たな追加的請求であるので、独立に法定の出訴期間内に提訴されることを要すると解すべきところ、右新請求が追加された時点では既に原告が本件裁決を知った日から三箇月以上経過していたので、右請求は出訴期間経過後の起訴であり、不適法として却下さるべきである。

2、行訴法二一条は取消訴訟から出訴期間の制約のない損害賠償その他の請求への変更を特別に認めた規定であり、本申立のように出訴期間のある取消訴訟への変更を認めた規定ではない。従って本申立に同条を適用ないし準用することはできない。

3、取消訴訟における出訴期間の制限の目的は、速やかに行政行為の安定を図るものであるところ、損失補償を求めて約五年間訴訟を追行した後、本件裁決の覆滅を求める原告の本申立は、右立法趣旨からして同法二一条にいう相当性の要件を欠くものといわなければならない。

4、本件訴訟は昭和四六年二月八日に提起されたにも拘らずいまだ準備手続中であるが、これは原告が自らの主張を法律的に構成することを怠ってきたためであり、現段階で改めて訴の変更の申立をなすのは、原告の故意又は重大な過失によるものというべく、仮に本件申立が認められれば、更に収用委員会の答弁や主張立証を待つことになり、著しく訴訟を遅延せしめることになる。従って本件申立は民事訴訟法一三九条により却下さるべきである。

というのであり、被告となるべき収用委員会の意見の要旨は右1と同旨である。

三、1、よって按ずるに、本件記録によれば、申立の理由1の事実及び次の事実が認められる。

(一)  本件裁決は、原告の本件土地が原告の所有である旨の数次の意見書の提出にも拘らず右主張を否定し、却って証拠の上から訴外林孝三をもって所有者と認めることができるとして、同人に対して本件土地を収用し、補償金は五万七三六三円としたが、原告については、これに反し関係人なる身分を掲げるだけで、その補償についても本件土地上の物件である寒倉堂に関するものと同所の遺体処理に関するもののほか地蔵堂に関するものの三項に分けた合計金一二万九二四二円を示すだけに止めたもので、結局原告については損失補償を伴う明渡義務を裁決するだけのものに終局したということができる。

(二)  これに対し原告は、昭和四六年二月八日、新潟県を被告として本件収用による本件土地所有権の侵害により生じた財産的・精神的損害の補償及び本件建物に対する損失補償の増額を求めるとして、土地収用法一三三条に基づき、要約「被告は、原告の所有物である本件土地を強制収用したことにより生じた損失の補償金として金五〇万二一〇八円及びこれに対する昭和四五年一二月八日より右金員完済に至るまで、年五分の割合による金員と、同年七月一七日より原告が本件土地の所有権を復元する時限まで、一日当り金七五〇円の割合による金員を支払え。」なる請求の趣旨の記載のある訴状を当庁に提出した(当庁昭和四六年(行ウ)第二号補償金等請求事件)。同事件は直ちに準備手続に付され、同年五月二八日の第二回準備手続期日において、主文前段記載の請求の趣旨が陳述され、その請求原因事実として右訴状の当該部分のみが陳述された。

(三)  原告はその後もいわゆる本人訴訟を続けてきたが、本件建物についてはその補償の数額のみを争ったのに対し、本件土地については、その所有権が原告に帰属する旨を一貫して主張し、これらの点が本件訴訟の争点となってきた。

(四)  昭和四六年一二月四日に至り、原告は新潟県及び訴外林孝三を被告として、本件土地は原告の所有にかかるものであることを確定することを求める旨の中間確認の訴状を当庁に提出し、又昭和四七年六月三〇日には被告代理人の釈明に答えて、本件土地は原告の所有にかかるものとの主張をなした。

(五)  昭和五〇年二月一〇日、原告より本訴の訴訟委任を受けた代理人は、同年九月二三日第三六回準備手続期日において、被告県に対し本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続等を求める旨請求の趣旨を変更し、更に昭和五一年一月二九日、請求の趣旨を変更整理すると称して、その第一項で、本件土地につき本件裁決の取消を求める旨申立て、同時に被告を収用委員会とすべきなのに故意重過失なくしてこれを県と誤って表示したとして、行訴法一五条による被告の変更を申立て(当庁昭和五一年(行ク)第一号)、更に同年七月一二日、行訴法二一条による本申立に及んだ。

右事実によれば、原告の内心の意思はともあれ、本件土地についての原告の請求は、損失補償ないし損害賠償を求める訴から、取消訴訟の訴にいわゆる訴の交換的変更がなされたというべきことは明らかである。

原告の意思を測るうえで土地収用法一三三条の訴の性質を考えるのに、この訴による場合でも必要のあるときには、因って生じた当該損失(損害)の範囲の決定をも審理の対象となし得るものである。従って、元来原告が収用する土地につき取得される権利との関係で、補償を求め得る適法な資格を認められる場合には、原告の蒙った損失を補償するようこの訴によって目的を達することができる訳である。しかしながら、本件裁決におけるように原告が本件土地につき所有者たる地位は全く否認され、これと矛盾する第三者の所有権が逆に認められるというような場合には、少くも起業者がその裁決を肯定し、収用委員会が自ら発した収用処分の自縛性を肯じる以上は、積極的にこの公定力を覆し原告が自らの正当と信ずる被収用者たる地位の確認を得んがために、取消訴訟による収用裁決(第三者を所有者として権利取得を明らかにするものと一体をなしたものとしての裁決にかゝる)の取消を求める十分な利益と理由があるといわなければならないものである。

原告は請求中に慰藉料等を掲げ、強く裁決の違法性を攻撃するから、その訴の性質を国家賠償法一条一項によるものと結びつけていると考えられる余地がないではないが、だからといって裁決の取消に本訴を変更してその判断の出るのを待つのを妨げるものではない。

2、ところで、行政事件訴訟において取消訴訟から損害賠償等の請求への変更は行訴法二一条により明文で許容されているが、本件のようなこれと正反対の取消訴訟への変更の許否については明文の規定はない。当裁判所は本訴の事案に鑑み、これを積極に解するのであるが、その理由は次のとおりである。

(一)  土地収用法一三三条の訴については上に触れたところであるが、本来は収用されること自体には不服はなく、損失補償の点にのみ争いのある場合に、収用裁決自体の取消を求めることにより収用手続の迅速な進行を妨げることのないよう(同法一三四条)法律により特別に認められた訴であって、起業者と土地所有者又は関係人間で争われる形式的当事者訴訟であるが、一面で、収用裁決のうちの損失補償の適否を争い、実質的にこれが取消を求める点において抗告訴訟の性質をも有していることを否定できないものである。この意味で右訴訟につき一般の抗告訴訟と同様三箇月の出訴期間が定められていることを理解することができる。原告はこの期間内に本件裁決全体に対する不満を理由として本件訴を起している。

(二)  右1で認定したとおり、本訴において、原告は訴提起時より一貫して収用委員会の本件土地所有権の帰属の認定を争ってきており、実質において本件裁決の収用自体の当否が訴訟で争われてきたという状態にあって、本件裁決自体の安定性が十分に高まっていたといえない面がある。

(三)  そして右のような原告の提出する実質的争点に着目して、被告県としても原告の法律構成につき早晩変更があり得べき可能性を認識できないことではなかった。

(四)  本件における従前の被告県と被告となるべき収用委員会との間には、行訴法二一条に示されるような行政庁と行政主体としての密接な関係がある。

3、もっとも出訴期間の点については次のように考えるべきである。

行政処分に不服のある者の争訟提起について出訴期間の定めを置くことは、十分に合理的な意味があることであるから、行訴法二一条による場合でも、この制限を外すことができないことは自明である。従って、同法条には同法一五条三項のような出訴期間についての規定が欠けているが、欠けていること自体はむしろ当然視されて然るべき事柄である。しかしながら、それと同時に、訴の変更は新訴の提起に外ならないからとの見地に立ち、常に文字どおりに出訴期間の制限を一律に適用するならば、例えば、たまたま特定の争訟制度で救済を求め得ると当事者が過失なくして信じてその途を選んだのであるが、後日に至り右の選択された手続が誤っていたことが判明した場合とか、当事者の過失の有無はともかくとして、適切な争訟手続への復帰に当該当事者の責任を問い得ない特別の事情が存した場合のような、救済を必要且つ相当としながらも、出訴期間を経過したと認められる点だけで救済から除外される不幸な例を生じ得ないではない。従って、取消訴訟において被告を誤ったときの被告の変更に関する同法一五条三項と権衡を失しない限度で、出訴期間が実質的に遵守されているとき、並びにこれに準ずると認めるのを相当とする場合には、同法二一条に拠り且つその適用を拡張する形において、当事者にはその求める救済手段を与え、もって抗告訴訟における必要な審理の席に就かしめるのがむしろ妥当なことであるというべきであり、以上のことは行訴法二一条の相当性の判断時に考慮すべき事項の一として認識すべきであると解する。

四、そこで、本件訴変更の申立が行訴法二一条所定の要件を充足しているか否かにつき更に検討することとする。

1、まず本件土地についての従来の損失補償金ないし損害賠償金請求と新たな本件裁決取消の訴は、いずれも収用委員会が本件土地所有権の帰属の認定を誤り違法に本件収用をなしたことにより、本件土地所有権を侵害された原告の損害の回復を目的とするものであるから、その請求の基礎は同一であるといわなければならない。

2、次に訴を変更することが相当であるか否かについて考えるに、

(一)  訴変更前後の両訴の法律的性質については既に述べたとおりで、本申立を許さないと、原告の救済を著しく困難にする虞がある。

(二)  弁論の経過及び記録によれば、原告は本件収用に至るまで法律に全く暗く知識も関係も有しなかった老人であり、訴の形式及び被告のいかんにつき的確な認識を得られないまま、土地収用法で唯一つ明文で認められている形式である損失補償の訴によって、本件収用手続中最も接触の多かった新潟県を被告として本訴を提起したものであることが認められる。一般に原告のような環境にある者に対して、本件事案の場合に、行政庁の処分に対しては抗告訴訟を提起しうるとの知識を要求することは妥当でないから、原告が右のような事情で当初損失補償の訴を起したことは、故意又は重大な過失に該るものとはいえない。

(三)  本件申立が訴提起後ほぼ五年経過した後始めてなされたのはやや遅きに失する感がしないではないが、本件は未だ準備手続中であり、事案の内容も、訴の形式のいかんに拘らず、損失補償額認定の点ではその複雑・困難さから審理のある程度の長期化はやむをえなかったことが認められ、前認定のとおり訴提起後昭和五〇年三月一八日まで法律に疎い原告本人により訴訟が追行されてきたことを考えると、より速やかに法律専門家等から適切な助言を得るべきだったとはいえるにしても、未だ本申立が原告の故意又は重大な過失によって時機を失してなされたものとは断定しがたい(民訴法一三九条が訴の変更申立について適用があるか否かについては、消極に解するが、しかし故意又は重大な過失により時機を失して申立がなされ、これがために著しく訴訟の完結を遅延せしめる事情のあるときには、行訴法二一条の相当性を判断するにつき重要な一要素として斟酌すべきであると考える)。

(四)  従前の原・被告双方の事実上及び法律上の主張、証拠の提出認否などを本件記録に照して検討すると、新たに被告となるべき収用委員会はこれらを利用する便宜があり、本件申立を認めても同委員会に対してことさら不利益を課するものともいえないし、又本申立を認めることにより、審理に多少の日時の増加を要することは避けられないにしても右委員会が適切に従前の訴訟資料を利用すれば、これがため必ずしも著しく訴訟が遅延せしめられるものとはいえない。一方で従前の被告でありその余の請求についてはなお被告にとどまる県にとっても本件申立を認容することにより特に多大な不利益を受けるとはいい切れない。更に公益的見地から検討しても、本申立を却下すべき事由は特に見出せない。

以上の点を総合勘案すると、本件訴の変更は相当であるというべきである。

3  よって原告の訴の変更申立は理由があるのでこれを許可することとし主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡山宏 裁判官 池田真一 満田明彦)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例